CDグルメ:祐の試聴記
   No.73  [2001. 4. 1 掲載]



   No.73 。ということで、このcd gourmetをやりはじめてから丸3年がたち、
4年目に入った。そこで、あらためて簡単にこのウェブサイトの意味みたいな
ものを確認しておこう。
 僕の本業はラジオのディレクターである。本業、というのはコーリングとい
うような大げさなことではなくて、要するに継続してやっていて自分の得てい
る収入の中で一番大きい割合を持つ、と考えていてもらっていい。
 この仕事がらポップス、ロック系を中心にたくさんの新譜のCDをいただく
(正確にいえば、レコード会社から貸与される)。これを音的にも音楽的にも
きちんと再生できる能力のあるオーディオを使って聴き、毎月1日と15日に5
枚ずつ紹介していく、というページである。
 音楽の選び方について、また何がいい録音であるか、についてはいろんな様
相があるので一言では言いがたい。いやむしろ、ひとつづつの音楽について考
え考えやっているし、ゆえに新しい音楽、あたらしい録音に対する柔軟性も持
ちえていると思っている。
 音楽が録音され、それがパッケージソフトとして“商品”になっている以上
、録音音楽と商業主義みたいなものは切ってもきれない関係にある。ただし今
は音楽の売り方のシステムが20世紀から21世紀型にシフトしつつあるのが
現状で、たとえばインターネットによる配信の問題であるとか、携帯電話で音
楽を聞くことの成り立ちなどについては僕もぼんやりと考えだしているけれど
もそういう暇つぶしに毛がはえたような聴き方ではない、人生を変えてしまう
ような圧倒的な音楽があり、そういうものを聞きたい、というのが僕の立場だ
。音楽をなめてはいけないと思う。

 最近、僕は「文化」という言葉をなるべく使わないようにしている。それは
「文化」という言葉を使ったとたんそれが中身のない、お役所の決めたルーテ
ィンな、あるいは、ひとりよがりな青臭いものと取られる気がするからだ。た
とえば「文化施設」「文化事業」「日本文化の可能性」「若者文化」。また「
文化」という言葉を使った僕自身がリアルでなくなる気がしているからだ。音
楽「文化」を大切にしようよ。ほーら、なんか青くさいでしょ。「東洋文化」
と「西洋文化」。ねっ、今さらの感じになる。
 その結果、僕は頭の中で「文化」という文字が浮かんでも、その言葉を飲み
込んで「生活習慣」と言うようにしている。
 「生活習慣」レベルの低い国。
 日本の「生活習慣」は急速に変化しつつある。
 中国の「生活習慣」大革命。
 インターネットが生み出す「生活習慣」。
 何を言いたいかと言えばつまり、僕はたしかに物質文明も大事だがそれより
も精神の「生活習慣」のが大切なものだと思ってるってことなんだけど。
 さ、4年目です。







361  マーカス・ミラー『M(エム・スケアド)〜パワー・アンド・グレイス
』(ビクター VICJ−60737 ¥2520)
 アメリカのジャズ、フュージョン界、あるいはR&Bといってもいいかもし
れない、そういった音楽のまずベーシストでありマルチプレイヤーであり、プ
ロデューサーだ。まず音楽がいい。感覚的な言い方で申し訳ないが、クールで
スタイリッシュでしかも憂愁があって、悲しみの中の喜びみたいなものがある
。そしてアレンジとサウンドデザインのテクスチャーとして耳と脳が気持ち良
くなるようなひとつひとつのねいろの選び方と、その構築の仕方があって、マ
ーカス・ミラーとしても、最上の出来であることは間違いない。ベーシストと
してのうまさとか、技巧の鮮やかさは言うまでもないがそれがこれみよがしで
なく、無駄な音を出さない中でやっているのには感服する。そして録音もいい
。マーカス・ミラーの音楽というのは個人的にもオーディオの試金石で、カー
オーディオでミッドウーハーのこもりが云々とやっているのひとつの原因はこ
の人の音楽のせいである。ちなみに正直に書くと、今リファレンスで使ってい
る家のメインシステムのスピーカーケーブルではこの音楽は正確に再生できて
いない。低域のレンジや階調表現の面で役不足である。
 それにしても抜群にいい音楽だ。しかもライナーノーツを読むと、僕が感じ
るいいという要素が偶然に出てきたのではなく、狙いすましてやっていること
がわかる。マーカスはこう語っている。「僕はいつも自分の音楽が、あまり凝
りすぎたものにならないように注意している。確かに、ある程度の細部の複雑
さは必要だけどかといって“すごくファンキー”というだけのもので終わらせ
たくもない。常に“深み”がなくてはならないんだ。でもまた、インフォメー
ションが多すぎるとフィーリングが壊れてしまう。だから、そこでうまくバラ
ンスを取らなくてはならない。難しいけれど、そこがまた楽しくもあった」









362  シェイ・シーガー『メイ・ストリート・プロジェクト』
 (BMGファンハウス BVCP−21185 ¥2548)
 ロック寄りのサウンドをもつ、女性のシンガー・ソング・ライター。全体的
にそんなにシャウトしないで内側に向かって歌うタイプであるが、ジャニス・
ジョプリンが好きという面が歌に出ている曲もある。で、アメリカとイギリス
の問題について触れないわけにいかないだろう。アメリカのテキサスに生まれ
て10代中頃までそこで育つ。しかし結局デビューしたのはイギリスで、イギ
リスのプレスでの評価がえらく高いという。父はベトナム帰還兵で精神的にま
いっていて、生まれ育った地区にはそういった人たちが多かったそうだ。母は
画家である。どうしてイギリスからのデビューになったかというと、「しっく
りする」からだそうだ。そういうことは多分あるだろう。ジャケットの写真が
面白くて、表紙では男の子が星条旗を持ち、星条旗のデザインのブラをしてい
る。しかし中では、星条旗をまきつけて赤のストライプの部分しか見えないよ
うにした旗をシェイが持っていたり、イギリスのユニオンジャックを縦にデザ
インしたノースリーブのシャツを着ていたりする。サウンド的なイギリスとア
メリカの違いはわかるが、僕には両国の精神的な「生活習慣」をリアルに感じ
られていない。きっとふたつの国は思っている以上にあい入れないところがあ
るんだろうな、と思う。
 コシのある低音が印象的で、かなりハイレベルマスタリングながら音の潰れ
た感じはない、うまくやったレコーディングだ。声が魅力的。なかなかポテン
シャルのあるボーカリストだ。







363  シュロン・シャノン&フレンズ
   『ダイアモンド・マウンテン・セッションズ』
 (オーマガトキ OMCX−1062 ¥2625)
 雑誌『FM fan』での小貫信昭さん、『Stereo Sound』で
の小林慎一郎さんのCDを紹介しているページ、あるいは同誌での和田博巳さ
んの「ニアフィールドリスニングの快楽」でCDを紹介している部分など、僕
は注意して読んでいる。それは、それぞれ違う音で聴いているのだろうが、音
楽の魅力をきちんと再生して評価しようとしているし、その結果幅広い音楽性
に対して肯定できる聞き手の方たちではないかと思っているからだ(話に聴く
と、ラジカセで音楽評論家をやっている人もいるそうだが、それだったらむし
ろCDの盤を手にもっただけで“念”で聴いた方が正確かもしれない。僕はラ
ジカセ評論家はバカタレだと思う)。このシャロン・シャノンは、小林さんと
和田さんが共通して選んでいた盤で僕も聴いて納得のいくものだったので紹介
する。
 シャロン・シャノンはアイルランドのケルト音楽を代表するアコーディオン
・プレイヤーだそうだ。その人がオルタネイティヴ・カントリーのシンガー・
ソング・ライター、スティーヴ・アールとの共演を皮切りに、多数のゲストを
迎えての1枚となっている。ゲストはガリシアのバグパイプ奏者のカルロス・
ヌニェス、良心のシンガー・ソング・ライター、ジャクソン・ブラウン、ホッ
ト・ハウス・フラワーズのリアム・メンリィら3人など多岐にわたっている。
音楽としては、ケルトのトラディショナルなのものから、カントリーのサウン
ドが多い。たくさんの人が移民したということもあるが、アイルランドとアメ
リカの「生活習慣」の距離はイギリスのそれよりも近いのがわかる。
 楽器の左右チャンネルの振り分けがちょっと不自然だったりするが、基本的
にアコースティックのサウンドの、響きの部分がうまく録られているので音と
しても満足度は高い。生命感ある音楽の聴ける1枚。







364  グラディス・ナイト『アット・ラスト』
 (ユニバーサル UICC−1010 ¥2548)
 これは小林慎一郎さんが紹介していました。1944年アトランタ生まれと
いうから、今年57歳なんだけど(女性の年齢をはっきり言うなんて、いけずや
わぁ)声の脂身が抜けていないし、僕の言葉で言うと声帯の地肩が強いボーカ
ルだ。歌の造形力がとてもしっかりしていて、一曲一曲の中での声による構成
力がいい。構築の仕方自体はある意味、理知的なんだけと、その根っこにある
情感が深いので、これらがあいまって結果として、かなりうまい、いい歌を聴
くことが出来る。サウンドはおとなしめのR&Bで打ち込みが多用され、曲に
よっては打ち込みの音の底の浅いところもある一方、全体的に低音の魅力は確
保されている。ボーカルの音像の肉質感(粘膜感というか)がよくて、ゾクッ
とする場面もありますね。
 これを流れで聴いていると、自分がアルバムの世界の中に開放されていくよ
うな心地よさがある。ぎゅうぎゅうに詰め込んだ音楽ではなくて、ほどよく隙
間があるんですね。いやー、いいなこれ。愛聴盤になりそう。







365  オフェリー・ガイヤール(Vc)
  『J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲 BWV1007,1008,1012 』
 (アンボワズィ/マーキュリー AMB−9905 ¥2625)
 フランスの高音質のレコーディング・レーベルのアンボワズィで、96KHz24b
itワンポイント録音されたバッハの無伴奏チェロ組曲からの3曲。いわゆる1
番と2番と6番。秋には残りの3曲が出るという。
 オフェリー・ガイヤールはフランスの女性チェリストで、初のソロ作品(と
書いてあるのだが、つまりソロでの初CDということなのか)。これがとても
瑞々しい演奏で、僕はこの曲のチェロでの一番いい演奏はカザルスのものだと
ほとんど時代錯誤のように思っているのだけれど、このガイヤールを聴いた後
ではあまりの古色蒼然さに考えを変えようかと考えてしまった。全体的に早め
のテンポ設定なのだが、それがキビキビというのではなく、むしろフレッシュ
さというか、しなやかで清新な感じをもたらしている。もうバレバレだと思う
けど僕はこの曲がすごく好きで今までもゲーリー・カーによるコントラバスの
ものとか、あるいは清水靖晃によるサックスのプレイのCDを紹介してきてい
る。それはマイスキー、ヨー・ヨー・マ、フルニエ、ロストロポーヴィッチ、
シュタルケル、ダヴィッド・ゲリンカスといった人達のこの曲のCDになんて
いうか、つまり不満があるからだ。それはひとことで言うと、この曲の「弾き
すぎた」演奏が僕にはしっくりこないからだ。こうやって解釈してます、とか
、こう弾いてやろうというような姿勢が見えてくる演奏がどうも僕にはこの曲
に合っていないような気がしている。古い樹木がそこにあって、今でも春にな
ると緑の葉を芽吹かせる、そんな自然の一部になってしまっているような演奏
。それがゲーリー・カーの40年間かけて弾き続けてきたあげくの自宅録音で
あり、残響の多い空間の中にバッハの音楽を存立させてやろうというまったく
別の角度からアプローチした清水靖晃のプレイというわけだ。それに肉迫した
チェロによる無伴奏チェロ組曲だという気がしている。音も芳醇だ。
(問い合わせは、
  マーキュリー/MAレコーディングズ販売03(5276)6803
  email:tgmarec@attglobal.net



〔オーディオについて 白いワラ〕

 4ウェイマルチになっているアンバサダー号のオーディオ。ミッドウーハー
のコモリが取れず苦労して、偏頭痛がひどいという話をした。その後、2歩く
らい前進しました。
 吸音材です。いい吸音材とめぐり合えました(以下に書くことは、なんか宣
伝みたいになるけど、もちろん一切癒着はないです)。
 前から、あるオーディオ誌の編集者に「熱研」のカーボンフェルトはいいで
すよ、という話は聞いていたのだ。ただ高価だし、通電性があって使いにくい
印象があった。しかし何しろ前号で書いたようなハマリの事態である。エンク
ロージャーを作りなおすとか、ユニットを変更することに比べれば、2万円の
吸音材で問題が解決すればメッケモンだろう、と決意して、またまた秋葉原の
ラジオ会館の中にいたわけですね。こんどはちゃんと意識は覚醒していたし、
あっと思ったら手に“それ”を持っていたわけではありません。

 “それ”というのは、「熱研」の「ミスティック・ホワイト」。商品の袋の
上の部分(CDで言うと“帯”みたいなところ)に、こう書いてある。
 「スピーカーと音響空間の『極限』を引き出す吸音フェルト。
  1 120Hz から200Hz の帯域を強力に吸音
2 低域のボンつきを根本から解消!!! 」
 僕が購入するに当たって一番引かれたのが、「120Hz から200Hz の帯域を」
の部分。一般的な吸音材の場合、500Hz ぐらいから下は吸音しにくい、という
のが相場だと思う。しかもビニールの中のより詳しい説明には「優れた特性で
お馴染みのカーボン・フェルトさえ凌ぐ」とはっきり買いてある。自社の優秀
な製品を否定してしまっているのである。値段はと言えば、40センチ×50セン
チの大きさのシートが2枚で8800円の定価(木村無線では¥7040)。カーボン
フェルトより安い(気がする。直接的な比較はできないけれども)。
 どういう素材から言うと、これもその解説から引用すれば、
「素材の元は実はよく家庭でも使われている『ポリエチレン』です。このポリ
エチレンを引っ張るとある程度まで伸びますが、それ以上は伸びない、という
限界があります。その時、分子は極めて強固に結合し、お互いに引っ張りあっ
て引っ張り強度は最高に達します。この状態を工業的に均一に加工し、細い繊
維状にし、さらにフェルト状に加工した」というように、やけに即物的な説明
である。どうも人間がすれているせいか、こういう即物的な方が僕には説得力
がありますなぁ。
 ただしひとつだけ使いにくいのは、これ普通のハサミで切れないんですね。
「オルファ社」の指定のハサミを使うか、半田ゴテで切断しろ、という指示が
ある(たしかに普通のハサミでも鉄切りでやっても滑って切れなかった。僕は
直線だけの加工だったので、定規をあててカッターで何とか切ったけれど)。
 それ以外は、これは相当すごい吸音材だと思う。もちろん、自分の目的に合
えばということだけれども。僕はエンクロージャーの中に、既に貼ってある祖
毛フェルトの上から使ってしまいました。何しろ薄いのでエンクロージャーの
容積を食われないし、書いてある通り100Hz 台のコモリを吸ってくれている。
いやまじに、技術の進歩ってすごいと思いましたね。ちなみに色が白いから「
ミステッィク・ホワイト」という名前らしい。

 さあ、こうなってくるとあと残っているのは、ミッドウーハーに付帯して出
る中音域の響き。たとえば、イーグルスの「ラスト・リゾート」の中で、ベー
スが単独になって「ドゥーン」と鳴るところがありますね。これ、うちのティ
ールのCS−7ではきちんと「ドゥーン」と鳴るんですが、バサやんでは今の
ところその音に(擬態語で言えば)「ポーン」というような2次、3次の高調
波が乗ってくるわけです。まずこれをなんとかして取り除く。これがまた具体
的な解決策がまったく浮かんでいないんだけど。アッハッハッ。
 そしてもうひとつは、ミッドウーハーが良く鳴るようになって顕在化してき
たダッシュボードの鉄板の部分の鳴き。こいつをやっつけられれば、かなりい
いところまで来ているんじゃないだろうか。まあその二つが解決するとこんど
は別のところが気になり出すんだろうけれども。
 溺れる者は白いワラをも掴んだのだった。