CDグルメ:祐の試聴記
   No.34  [1999.8.15 掲載]



 置田恭子の歌を楽しんだ。原宿クロコダイルというライヴハウスでだ。語弊
があるかもしれないがライブハウスらしい、思いとイメージのある、うまい歌
だった。この人は知り合いの奥さんで、たしか5年くらい前に1曲だけクラブ
のイベントか何かで聴いて、「人生の1時期において、死ぬ気で歌っていたこ
とのある人」というように僕はずっと覚えていた。死ぬ気というのは、つまり
命を削っても歌がうまくなりたい、とか悪魔に魂売り渡しても、ほんとに完成
した歌をものにしたいといった、そんな生き方のことである。たとえば、ボク
シングでも、オートバイのレースでも、植物の栽培でも、あるいはもちろん会
社の仕事でもいいけれど、全身全霊をかけて3年とか5年とか打ち込んだもの
がある人は、その時期が何かの理由で終わり何年かたって、一声出したり、ボ
クシングの構えをしてパンチの形をしただけでも、あきらかにシロウトとは違
うものが表現されてくる。それはその時のこころざしとか努力をしていた自分
のかつてと対峙しているように見える。もちろん置田恭子の場合、またライブ
ハウスに帰ってきて歌っているわけだから、それはかつての自分と対峙してい
るというよりもまさに今の自分、年齢なりのものを歌えるボーカリストとして
プレイしているわけで、より生ぐさくもあってでもかつての自分に「なんだい
、そんな歌い方すんの?」と問いかけられながら「あんたには分からないのよ
」と答えるように歌っている感じなんだけれど。おいしくお酒の飲めるライブ
だった。ちなみに、これは最上級の褒め言葉のつもりです。
 あるプロダクションの人と別の機会に飲んでいたら、最近はコンサートで生
で歌っていても、音程を補正できる機械があるという話になった。実際は音程
が悪い歌なのにPAのスピーカーからは補正されて聞かせられるというのだ。
打ち込みをやっている人であれば、インプット・クオンタイズの音程版と言え
は分かってもらえると思う。あまりに情けない話だ。ドラムを叩けないドラマ
ーに、マシンをコントロールできないレーシングライダー。バカが音楽を駄目
にしている。子供たちは音楽モドキを音楽だと洗脳されている。裸の王様がい
ても、儲かれば誰も服を着ていないことを言わない国。保守反動の流れがそこ
に妙につけこんでくる。
 そんな状況の中で、置田恭子の歌を聴いてひととき救われた。











166− イブライム・フェレール・ウイズ・ライ・クーダー

  『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・プレゼンツ・イブライム・フェレ
ール』 (ワーナー WPCR−19013 ¥2520)

 いろいろなジャンルで活躍しているアメリカの白人ギタリスト、ライ・クー
ダーがキューバのミュージシャンとキューバの音楽をやっている。去年、その
第1弾が出て、こんどはボーカリストのイブライム・フェレールをフィーチャ
リングした2作目が出た。イブライムというのはジャケットの男性で、192
7年生まれというから今年72歳である。この人のまず声がいい。甘く枯れた
でもやさしい声。歌も変なクセがなくて聴きやすい。その中でビートが立つと
ころはしっかりはまってくるし、フレージングとか、もちろん音程やビブラー
トもうまい。ラテン・サルサのポリリズムにうまく乗れているのは血がそうさ
せているのだろうか。そして前作もそうだったが、録音がすごくいいと思う。
技術的に言うと、マイクセッティングとミキシングが特別いいということにな
るが、なにしろ音楽をやっているその場の空気感がそのまま、CDをかけてい
る空間に蘇ってくる。思わずラムの甘い香りが鼻をくすぐるようにさえ感じて
しまう瞬間がある。ハバナのエグレム・スタジオで、前作と同じジェリー・ボ
ーイズ(これが個人なのか、チーム名なのか不明)によって収録、ミックス、
マスタリングされている。












167− ルシャス・ジャクソン『エレクトリック・ハニー』

 (東芝 TOCP−65232 ¥2548)

 ニューヨークの都市型の、頭のいい不良っぽい音楽。このアルバムからメン
バーが一人減って、女性3人になった。ブルースの感じもあるし、ビースティ
・ボーイズの主催しているグランド・ロイヤル・レーベルの看板娘なんて言わ
れるくらいだからヒップ・ホップの要素も当然含むが、アフリカン・アメリカ
ンの歴史的な流れの、現代的な形としてのヒップ・ホップではなくて、都市に
いるヒップ・ホッパーの文化を、アンダーグラウンドで肌から吸収した、言っ
てみれば、ヒップ・ホップの汗を浴びた音楽。1993年にデビューシングル
が出ている。たしかこれで3枚目のアルバムとなる(2枚目の『フィーヴァー
・イン・フィーヴァー・アウト』はダニエル・ラノワのプロデュースで当時の
愛聴盤だった)。今回はすこし不良っぽさが薄れて、ダンサブルになったきら
いはあるけど、あいかわらずかっこいい。僕のイメージだとこのアルバムのト
ラック6とか10が一番ルシャスらしいように思っているが、頭3曲のディスコ
ティークなサウンドも、“気持ちワル気持ちいい”“なつかし新しい”感じ。
あと、打ち込みを多用しながらもこのアルバムは中身の詰まった、いい音がし
ている。プロデューサーは、デイヴィッド・ボウイとかTレックスをやってい
るトニー・ヴィスコンティという人です。










168− ナタリー・コール『スノーフォール・オン・ザ・サハラ』

 (イーストウエスト AMCY−7045 ¥2520)

 CDの帯には“久々のコンテンポラリー・アルバム!!”というようにビッ
クリマーク2個付きで書いてある。久々というのは、つまりおやじのナット・
キング・コールのナンバーを歌った2枚とそのあとのジャズのスタンダード・
ナンバーを歌ったものを挟んで、ということだが、このアルバムもかなりスタ
ンダード寄りの内容と言った方が正しいと思う。カバーされているのはレオン
・ラッセル「ソング・フォー・ユー」、ロバータ・フラックが1970年のアルバ
ム『第2章』で歌ったナンバー、B.B.キングの「エヴリデイ・アイ・ハヴ
・ザ・ブルース」、ジュディ・コリンズの「あなたに尋ねられて」、ボブ・デ
ィランの「ガッタ・サーヴ・サムバディ」など。オリジナルで新らしく作った
のは1曲だけだ。アレンジは、ジャズのビッグ・バンド風もあれば、打ち込み
のポップスの王道路線もあり、オーケストラのゴージャス感あり、とよく言え
ば多彩、悪く言えば統一感はない。ただ、ナタリー・コールの声がすべてをひ
とつにまとめていて、たしかに歌の感触はコンテンポラリーではある。総じて
言うと、幅広く薦められる良くできたポップミュージックの1枚だ。










169− V.A.『JUSTA RECORD COMPILATION
                      Vol.1 』

 (エイベックス AVCD−11729 ¥2854)

 プロデュースを東京スカパラダイスオーケストラのメンバーがやっている、
クラブ系の音楽のコンピレーション。JUSTAというのは、スカパラのこの
分野の仕事をアナログのレコードでリリースしてきたレーベル。ずいぶんとた
まったのでCDにまとめてみたということだが、2枚組になりました。彼らは
デビューの頃からクラブが好きで、自分たちの好きな音楽をDJとしてまわし
ていたりして、僕のやっていた番組でもレコードを持ってきてその一部を聞か
せてもらったこともあるけれど、ほんとに音楽が好きというか、音楽への愛の
ある人たちです。そして、このCDに収められた曲では参加アーティストも多
彩で今のクラブ・シーンのひとつの雰囲気が楽しめると思う。音もしっかりし
ている。切れ込み感が良く、全体に馬力のある音だ。そして、ここにも参加し
ている一人、Fantastic  Plastic Machine(田中
知之)のマキシ・シングルも推薦させてください。『internation
al standard(LUXURY REMIXES)』(コロムビア
COCP−50069 ¥1575)。新宿リキッドルームで彼のDJプレイ
があって行ってきたんだけどもうコテコテに良かった。踊り狂いましたね。酸
欠状態で、後ろ隣の女の子とガシガシぶつかりながら(おどりって規則的な動
きだから、あたりだすとしばらくぶつかりつづけるわけだね)、それでもお互
いにぜんぜん気にならないぐらいナチュラル・ハイ状態。脳ミソがとろけまし
た。










170− 福田進一『ショパニアーナ〜究極の名器トーレスをひく』

  (DENON COCQ−83190 ¥3059)

 大音量のクラブで脳ミソをとろかした後は、あいかわらずその舌の根も乾か
ぬうちに、こんどはクラシックギターのとろけるような音色を紹介させてくだ
さい。それにしても、この音楽を聴く幅の広さ(でも底は浅いんだな)。誤解
されやすいと言うか、信用されにくい性格だと自分でも思っております。
 クラシック界屈指のギタリストと言っていいと思う一人、福田さんの、ショ
パンのピアノ用の曲をタレガとかセゴビアがギター用に編曲したものと、タレ
ガ作曲の、全部で25曲を演奏したアルバム。楽器が1864年製のアントニオ
・デ・トーレス製のギターを使用しているということだけど、そのせいだけで
なくたぶん腕もいいし録音が良くて、すばらしく甘い、とろけるようなギター
の音が聴ける。マイクの距離は近目で、ホールトーンも少なめ。デッドなホー
ルの前から3列目くらいで聴いている感じ。その音の録り方が、音楽全体の形
の、楷書のような品格をうまく出せている。福田さん本人が「タレガは、もは
や古楽であるという考えで取り組みました」いう通り、失われてしまったもの
への甘ずっぱい感じが、逆に現代的だと思った。






〔オーディオのことをめぐって 
   67センチの縦の線とそれを支えるベースメントの重心位置〕

 ずっと、うちのスピーカー(ティールCS−7)の話をしています。前回、
さいごに触れたスピーカーのセッティングの話。つまり背板を地面から直立さ
せるのではなく、後ろにそっくり返った状態にしている件です。高音のきつさ
を対処するためと書きました。が、実はいろいろとほかの要素もあるのでこの
件について今回は書きます。
 もともとこのスピーカーのユニットのついてる面、つまりバッフルはスラン
トしています。これはもし通常のスピーカーのようにスラントしていない場合
、上にある高音ユニットよりも下にある低音ユニットまでの距離が、聞き手の
耳の位置から遠くなってしまうのを補正するための形です。いわゆるタイムア
ライメントを合わせているわけで、つまり音の波の形の正しさを狙っているデ
ザインと言っていいでしょう。ちなみに、ツイーターの中心からパッシブ・ラ
ジエーターの中心までは67センチメートルもの縦の距離になり、たしかにス
ラントさせるというセッティング方法による補正の変化率は大きいものがあり
ます。
 しかし現在そのスラントしているバッフルをもっと傾けて使っています。ス
パイク(スピーカーの下の四隅についてる足でねじ込み式)の前後の高さを変
えて調節。具体的に言うと、現在フロントの方がリアに大して13ミリメート
ル上がっています。これだけ変えるとタイムアライメントの効果もたしかに大
きいですが、その要素以外のものがこのセッティングにはあります。それは現
象として出てくるのは低音の立ち上がりが良くなる、あるいは低音の鳴りが良
くなるわけで、そちらの理由のが自分にとっては大きいです。
 スピーカーを部屋のどこに置くか。これはなかなか苦労する問題です。僕自
身もこの部屋の、この位置に、この角度の振り方で、このスラントになるまで
、ああでもないこうでもないとやってきました。うまく鳴るようになるまで2
年半くらいかかりました(その結果うちの弱い剛性のフローリングの床の中で
、梁の通っている部分がちょうどスピーカーの真下を通っていたのには驚きま
したが)。実は前回このcd gourmetの原稿を書いた後、一回スピー
カーの立ち方を元に戻してみました。つまり普通に直立させてみたわけです。
タイムアライメントが狂い、正しい音の形が崩れるだけでなく、低音がうまく
鳴らない、立ち上がってくれないというのを確認しました。あらためてそれを
聴くにつけ、音波がゆがめられているだけでなく、どうもこの状態はナマッタ
素材のインシュレーターをスピーカー下に入れた時のような音だと気がつきま
した。
 つまりこういうことです。
 このスピーカーのバッフルはコンクリート製で、それだけで30キログラム
くらいあります。そして、そこにそれぞれ相当重いユニット(ウーハーだけで
12キロ強)が装着されているわけで、つまり、普通に直立させた状態の前後
の重心としては、かなり前寄りにあります。もちろんスラントしているで前方
に倒れたりはしませんが、もし4本のスパイクの下にハカリを入れて測ってみ
れば多分前の方により荷重がかかっています。そうすると、激しく前後に動く
振動版のベースメントとして、ミクロ単位でリアが浮き気味になるではないか
。だから特にそうした影響をうけやすい低音が、うまく立ち上がらなくなるの
ではないか。そう推測したわけです。それに対して、フロントを上げ、よりそ
りかえった状態にすれば、前後の荷重は平均化します。
 オートバイでも車でもフロントのグリップをより大きくしたい時には、前の
の車高を落とします。つまり荷重を増やすわけです。車の場合、そこにサスペ
ンションのバネレートやイニシャルプリロード、アウト・インのダンピングの
問題が絡んでくるので、また話は複雑化しますが、スピーカーの場合、振動の
起点と、その振動がどこに伝わって解消されたり蓄積されるか、という点が基
本的に解決すべきことになります。それを、僕はいろいろやっているうちに正
解に近い妥協点を見つけられることができた。そんな気がしています。もちろ
んこの重心の問題についてはティールではいっさい触れていません。僕がいろ
いろやった結果の推察です