CDグルメ:祐の試聴記
   No.101  [2002. 6.1 掲載]



 4月の終わりから5月の連休。さすがにこの時期、みなさんお金
を使ってしまうのだろう。昔、むらさきでアルバイトしていた時も
、この連休あけというのは歴然とお客さんが少なくて、普段の平日
の半分強しか売上がなかった覚えがある。そして多分それに対応し
てCDのリリースもここを外してくる。つまり5月は1、8、15日
のリリース数は少ない(そういう時期でもコアなファンにとっては
関係ないので、たとえばローリン・ヒルのあの素晴らしい『MTV
アンプラグド』のようなものは5/8 にリリースしてくる、というこ
とも言える)。そしてその反動のように5/22、29はリリースが多い
のだ。忙しい中バタバタと聴いているのだが、本文で取り上げた5
タイトル以外にもいいものがあって短くここで紹介しておこう。

 ヤポネシアン・ボールズ・ファウンデーション『〔アザディ〕!?
』(リスペクトレコード)はヒート・ウェイヴの山口洋と渡辺圭一
、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、コーキのロックン・ロー
ルなユニット。いいよ、快感です。帯のコピーを引用すると「チャ
ック・ベリー、チャーリー・ワッツ不参加の東亜細亜極道ロックン
ロール決定盤!」謙虚な悪態、やりつづけてほしい。
 ボーイズ・メン『フル・サークル』は、テイク6のアルバムと同
じく、9/11のテロへのレスポンスの要素あり。出来はいい。
 佐野元春『SOMEDAY(コレクターズ・エディション)』は
8曲のボーナストラックが付き、音も良くなった。以前の20周年ア
ニバーサリーのベストでは低音が一本調子でウーンと思ったが、今
回はマスタリングが改善されてきている。
 オレンジ・ペコー『Organic Plastic Soul
』。歌に存在感があり、サウンドの作り方もこなれている。
 ルトニシア・マクニール『メトロプレックス』はR&Bポップス
。いい女声の、メロがはっきりした、聞きやすい1枚。
 ニーナ・フリーロン『テイルズ・オブ・ワンダー』は全12曲、ス
ティーヴィー・ワンダーのカバー。ジャズ・アレンジ。いい声のて
いねいな歌。低音がゆるめのスピーカー向きの優秀録音の1枚。
 椎名林檎『唄ひ手冥利』、椎名純平『discover』は兄妹
そろって無邪気なカバー集。曲によって出来の違いが大きく、いい
音のものもあれば、ひどい音のトラックも混在。個人的には古いソ
ウルのカバーが秀逸に感じる。林檎の「枯葉」にはびっくり。
 ミランダ・リー・リチャーズ『ヒアゼアアフター』は去年アメリ
カでデビューした27歳の女性シンガー・ソング・ライター。マルチ
・プレイヤーでアレンジも自分でやっているという。いろんな要素
をうまく消化したポップス。

 ワールド・カップ、日本代表のことを書きたかったのだけど、仕
方ない、割愛。で、一言だけ。苦戦すると思う。







501  ディー・ディー・ブリッジウォーター『ディス・イズ・ニュー
〜クルト・ワイル・ソングブック』
 (ユニバーサル UCCV−1025 ¥2548)
 ユダヤ系ドイツ人作曲家、クルト・ワイル(1900〜1950。このデ
ータの書き方だけで、いろいろと想像していただけるとは思うが)
の作品集。5月24日金曜日の夜9時頃。えらく混雑していたタワー
レコード/新宿店でこのCDを見た時に僕が思ったまさにそのこと
をライナー・ノーツの中川ヨウさんも書かれているので引用させて
もらおう。
「クルト・ワイルを歌う歌手は、いつも闇から声を発するように暗
くシニカルで(少なくとも哲学的で)、およそ愉しさとは無縁だっ
た。近年、ドイツ生まれで今はブロードウェイで活躍するウテ・レ
ンパーや、ポップス界からマリアンヌ・フェイスフルがワイル歌い
の仲間入りをし、ワイルのソングのイメージもかなり広がった感が
あるけれど、それにしても。」
 そう、平たく言ってディー・ディーの新譜は心待ちしてにしてい
たけれど「エッ? クルト・ヴァイル(と、僕は発音したいんです
けど)やってんのかぁ?!」という感じだったのだ。しかし試聴機
でちらっと聞いてホッとして買ってきた。そう、ヨウさんも思った
ように1枚聞きおわってヴァイル臭さが全然ない。奔放で激しく、
あるところは媚を売り、ある時は突き放し、婉曲だったり、ガンガ
ン攻めてくる強力な喉からの歌、あのいつものディー・ディー・ブ
リッジウォーター節の、ノリのいい音楽になっているのだ。こうな
ったらもうこっちのものだ(って、どっちのもの?)。
 録音がいい。ディー・ディーの歌を録音するということは、あの
強力な声と対峙しなければいけないので、自然とエンジニアも身を
引き締めて録音に当たるのではないだろうか。ディー・ディーの声
だけでなく、ドラムやホーンでもエネルギー感/密度の高い、彫り
の深い音になっている。そして、再生する側から言えば、強力なツ
イーターユニットでないと、なかなか聴いた気にならない声、音楽
でもある(と書きながら、わたくしはほくそえむのであった)。低
音の入り方も正確で情報量多く、オーディオ的にも音楽的にも推薦
です。









502  ロス・ロボス『グッド・モーニング・アズトラン』
 (カッティングエッジ CTCW−53030 ¥2548)
 ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクというプロデュース・
チームを離れて作ってきた。開放的な音で、開放的な音楽になった
。彼らのプリミティヴないい面が出たと思う(分かっている人はこ
こまでいいです。後は、事情を知らない人のために)。
 もともとロス・ロボス、「ラン・バンバ」の人達である。テック
ス・メックスって言うか、泥臭いバンドと言ったら叱られるかもし
れないが、その人達がフルーム&ブレークと出会って『キコ』が出
来、傑作『コロッサル・ヘッド』が生まれた。でもその成功の余波
に浸りすぎてしまった。料理でもありますよね、クレイジー・ソル
トを知って使いだしたら、いつでもクレイジー・ソルト。何食べて
もクレイジー・ソルトで、ある時、赤穂のあら塩を使ったら、さっ
ぱりしてる上にコクがあって、なんだこういう味もやっぱりいいな
って。それです。
 じゃあ、クレイジー・ソルトの代わりに何を使ったかと言うと、
ライナー・ノーツの松山晋也さんの文章を引用させてもらおう。
「その新しいプロデューサーの名は、ジョン・レッキー。なーんだ
、と言うなかれ。確かにすれっからし、いや超大物ではある。全然
目新しくもなんともない。が、この荒々しいギターの音、曇りのな
いLAの空のような音質を耳にすれば、今の彼らにとってはジャス
ト・ミートな、そして勇気ある選択だったと納得してしまう」
 そうなんです、世界ランキング20位以上のチームには、フィリ
ップ・トルシエは向かないけれど、今までの日本代表には確かに必
要だった。でも1次リーグ突破を現実に考えるレベルになってきた
ということは世界のベスト16位に入っていくということだから、そ
ろそろトルシエもお役御免、というわけです。 
 もとい。バンドの状態にあったプロデューサーがいい、というこ
とですね。
 パキッとしたいい音です。とてもストレートに音が、音楽が出て
くる。ただし無機質ではなく、青空の下なのにそこに哀しみがある
ような情緒感も漂わせているいい音(フルーム&ブレイクが話の流
れ上、クレイジー・ソルトになっていますが彼らの音はそういうイ
ンスタントなのものではありません。手間ひまがかかっている、伝
統的でありながら、そこにアヴァンギャルドな要素も入った料理人
、とフォローしておきましょう)。







503  ブライアン・セッツァー・オーケストラ
  『ベスト・オブ・ザ・ビッグ・バンド』
(トイズファクトリー TFCK−87283 ¥2415)
 日本で企画したベスト盤、2タイトルを紹介。
 まずブライアン・セッツァー・オーケストラ。イチロー選手の出
演しているペプシのCMで「ペッペッ、ペプシー」ってやっている
のがこの人たち。このベストにも「セッセッ、セクシーッ」て歌詞
を変えて収録されている。ブライアン・セッツァーは、1959年生ま
れの(僕のひとつ上の、ということは神蔵美子さんとタメ)アメリ
カ人で、ストレイ・キャッツというロカビリーのバンドで80年代は
活動していた。ヴォーカル/ギター。ブライアン・セッツァー・オ
ーケストラになってからは、ビッグ・バンドの、スウィングする系
統のものも入れた音楽をやっている。ルーツ的な音楽を現代的なノ
リの良さで展開していて、今までに4枚のアルバムがあり、そこか
らのベストで18曲収録。
 そして、ポール・アンカのベストが『ゴールデン・ボウル』(ソ
ニー SICP−140)。日テレのドラマのタイアップだけれど
も、いいねぇ、ポール・アンカも。あとライナー・ノーツの朝妻一
郎さんも書いているのだけれど、自分で曲を作って自分で歌う、シ
ンガー・ソング=ライター(昔はこう表記したもんです)はビート
ルズが最初と言われてきたのが、実はポール・アンカ、1957年には
もうそれをやっていて、事実、このベスト盤に収録された22曲すべ
てが作詞/作曲とも本人というのに驚きました。
 こういうある意味、古いスタイル(ポール・アンカのはそのもの
だけど)の音楽を紹介するのもどうかとは思うけれど、これが聴く
といいんりなぁ、マジに。新鮮です。
 ただし、日本盤独自企画のこの2枚。クレジットが貧弱。マスタ
リングに対する意識が低い。2枚とも悪くはないが、もっといい音
にできると思う。だいたいブライアン・セッツァー・オーケストラ
のなんか、マスタンリングをやった場所とかエンジニアの名前がな
い! これじゃあ、ドンキホーテで売っている1枚980円の、著
作権の許可もとっていないようななんちゃってベストとどこが違う
と言われても仕方ないですよ。以前紹介したドリス・デイのベスト
盤を見習うように。あれやバーブラ・ストライサンドのベスト盤を
企画したアメリカのことは褒めたくないんだけど、日本のレコード
会社の意識がまだこんなに低いとは僕だって思いたくないさ。







504  平良とみ/ショーロ・クラブ『ニライカナイ』
(ソニー SICL−9 ¥3059)
 その日本のレコード会社の企画したアルバム。これは素晴らしい
。5点満点!(って書くと『オートサウンド』のことを思い出して
しまいますが、今回締切りが早いんですね。ちょっとピンチ)。
沖縄芝居の役者、平良とみさん(ジャケット写真の女性。「ちゅら
さん」で同じみの“おばぁ”)の、ウチナー(沖縄言葉)による語
り。そのバックや語りの間のトラックでショーロ・クラブがやさし
い音楽を奏でる。また沖縄の民謡を何人かの人が歌っている。
 沖縄の言葉にも割合わかるものと、外国語のように全然わからな
のもがあるが、その両方が混じっている。意味がわからない部分も
あるのだけど、すばらしい語りと、ショーロ・クラブの音楽、そし
てすこし入ってくる波などの効果音に、ボロボロと涙が出てくる1
枚だ。脚本があり全文が掲載されているし、わからない言葉には注
釈がつくので内容は把握できるが、分析的に聴かなくて楽しめる。
いやむしろ、ぼーっとして聴いている方がこのアルバムの聞き方と
して相応しい。
 都会に住んで仕事に追われている人ほど、自分の生活に欠けてい
る何かが痛い1枚だ。渋谷に集まって来ている1万人の人全員の“
しあわせ”を足しても、このアルバムから見えてくる“しあわせ”
にはかなわないかもしれない。
 アルバムタイトルの『ニライカナイ』とは、海の彼方より島に豊
穣をもたらす楽園、「龍宮」と同じような意味だと言う。そう、つ
まり現代の日本にも「龍宮場」はあったのだ。








505  五嶋みどり『アニヴァーサリー・アルバム』
 (ソニー SICC−62 ¥2520)
 1988年にやったヴィエニャフスキーの第一ヴァイオリン・コンチ
ェルト(スラットキン指揮/セントルイス交響楽団)、つまり五嶋
みどり、16歳の時のライヴ演奏と、去年録音したアンコール・ピー
ス的な6曲(いつものロバート・マクドナルドがピアノ)から成立
している演奏活動20周年の記念盤。
 16歳の時のヴィエニャフスキー。この人の、テクニックの素晴ら
しさが気にならないぐらいのうまさ、ということをあらためて感じ
させてくれる演奏だ。つまり“これみよがし”と正反対にある。難
しいフレーズを弾いていて楽しそう。まったくあの小さな手でよく
そんなに指が開くものだと感心してしまうし、こういうヴィルティ
オーゾ的楽曲でありつつ音程がやたら正確なのも、ありそうでない
のである。ヴァイオリンを実際にやったことがある人だったらわか
る「ここは難しい。さらっても本番でうまくいくとは限らない」と
いうポイントが全部パーフェクトなのも唖然とするところだ。そし
て、あらためてヴァイオリン音楽の魅力みたいなものを楽しめる演
奏だ。音楽としてしなやかなのである。
 録音は近目のマイクで、たっぷりとしたねいろ感。ホールの暗騒
音もわかる。音場感はいまひとつ。
 そして、6曲のアンコール・ピース的な小品。曲が違うから一概
に言うのは危険だが、やはり年齢を重ねたことによる余裕、深みみ
たいなものが横溢、である(陳腐な言い方で恐縮だが)。テンポの
遅い曲では、楽曲を愛でているような味わいがある。
 あんまり誉めてばかりいて何なので、すこしだけマイナスなこと
を言うと、たとえばボルディーニの「踊る人形」。ここではものす
ごく細かくテンポを動かして、活き活きとした表情やのびやかさ、
そこから高い音域へ向かって跳ね上がるような多彩な表現があるが
、それがちょっとあまりに細かすぎて、この曲の本来のかわいらし
さという点では、今ひとつという気がした(僕が知っている限りこ
の曲のベストの演奏は、梅津美葉の『舞う〜ダンス・コレクション
』(BMGジャパン BVCC−764)に入っているものです。
洒脱、チャーミング)。しかしその後の、このアルバムのラスト曲
になるエルガーの「夕べの歌」が愕然とするくらい素晴らしい。
 はじめ、どうして1988年の演奏を入れているのかと思ったが
、それは五嶋みどりが単にいいヴァイオリニストではなく、すばら
しい音楽家に成長した、ということを如実に見せる構成だと思った
。「夕べの歌」には老成を感じさせるような心象風景があり、イメ
ージがひろがりながらもこちらの心を鷲掴みにしてくる。エルガー
を聴くためだけでもこのアルバムを買う価値があるのではないだろ
うか。



〔オーディオについて 細かい話〕

 うちで使っているCDプレイヤーはDENONのDCD−S1を
イケオンで改造したものだ。このCDプレイヤーに限らず、トレイ
を持たず、スピンドルのところに上からCDを置き、スタビライザ
ーみたいなものを置くプレイヤーに共通して、音が良くなりそうな
やり方をふたつ見つけたので、書いておきたい。

 まず、スタビライザー。これ消磁すると音の背景の静かな感じが
高まる。音自体が地に足が付いた感じ、落ちついたようなたたずま
いになるのだ。変化量も割合多めだと思う。うちではアコースティ
ック・リヴァイヴのRD−1を使っているが(そうです、音が美し
くなるRD−2はあえて使っておりません)、2〜3回ディマグネ
タイズした前後を聴き比べると歴然と違う。ちなみに、この機械で
は約8秒でディマグネタイズするのだが、緑のランプの明るさが段
々暗くなっていく時に、トランスがうなるような音がするのが面白
い。CDを消磁する時には出ない音だ。この音がどうして出るか、
どんな仕組で出るかは、まだわからない。

 もうひとつはCDを置く側、つまりスピンドルの方だ。
 CDと接触する面のゴム(正確な素材はわからないが)がある。
これを掃除すると、相当な変化量で音が良くなる。アクセサリーと
してメタル系の素材の、平たいリング状のものが市販されているの
も知っているが、たぶんうちで使用するとメタリックな音が強調さ
れてしまうだろう。そう思っていた時に掃除してみたら、あまりに
よくなったのでご報告する次第。特にうちの場合、雑多なCDをか
けるのでその部分が汚れる度合いが高いのかもしれないが、変化量
はスタビライザーを消磁するよりも大きい。
 やり方は綿棒に無水アルコール(できれば、カセットデッキのピ
ンチローラー用の薄めの濃度のものがいいと思います)を付けて、
全周にわたってゴミのない、まっ黒になるぐらいにするのがいい。
 まず低音から高音までバランスが良くなる。いろいろな楽器の音
はそれぞれに素材の質感が乗ってくるものだが、それがとても自然
になって帯域ごとのバランスが気にならなくなるのだ。また、音の
ない場所のニュアンスというか、たとえば五嶋みどりとロバート・
マクドナルドの間のそれほど広くない空間のインタープレイの感じ
、目を見合ったり、フッと合図を送るような感じがはっきりと伝わ
ってくる(ような気がするのである)。
 
 掃除した後、音が変化するのはもちろんだが、再生が終わってC
Dを取り出す時にCDがスピンドルのゴムの面にハりついているの
がわかる。この感触がぜんぜん違う。
 この感触からするに、CDの信号面とCDプレイヤー側のレーザ
ーピックアップの距離。これがミクロ単位ではずいぶん違うのだろ
う、とまず思う。もちろん面ブレを減少させるという意味では間違
いなく対策になっているはずだ。またCD自体の響きをダンプする
、という意味でも効果は大きいのではないだろうか。 

 DCD−S1は、がっちりした筐体でCDドライヴ部のベースも
よく出来ているので、その上に乗せるCDとの接触部分の小さなこ
とが良く効いてくるのかもしれない。しかし、同じ形式のプレイヤ
ーでもやってみる価値はあると思った。

 自分だけ知ってやっているには、もったいないぐらいのことなの
で書いてみました。前回、いい加減な事を書いてしまってかなり反
省しております。